太陽も空高く昇ったお昼時、食堂には午前中に消費したエネルギーを補充しようと人が集まる。 当番制で行われる『食堂のお兄さん』役に当たった人たちは、食に飢えた狼どもに手際よく飯を渡している。
『お兄さん』と言うにはゴツイ、どう見てもエプロンが似合わない人からご飯の器を受け取ると、レスクは見知った顔の座るテーブルへとお盆を運んだ。

「ん、リートは…今日は非番だったか」
「うん、今日は休みー。多分また街じゃないかな?」

あ、先にいただいてまーす、と言いつつ、スープを掬ったスプーンを少し掲げて、フィルは笑った。
テーブルの上には一人分のお盆。 歯形の残るパンと、湯気の昇るスープと、肉や卵に野菜が乗った大きめの皿、そしてデザートに果物が少し。
レスクはフィルの隣に座り、手を合わせる。
他の人はよくその行動に首を傾げるが、レスクにとって、食べる前に感謝の意を込めて一礼するのは習慣だった。 リートやフィルはときどきその動きを真似ているが、その意味はあまり理解していない。

「また街か…最近多いな」

ここ最近、リートは休みになると街へ出かける。
たしかに部屋でゴロゴロしているよりは時間が潰せなくもないが、いくら国一賑わいのある城下街とはいえ、所詮は民家の並ぶ住居地だ。 そこでできることなど限られる。買い物か食事か、どちらにせよ金が必要だ。
訝しむレスクに、フィルは「あれっ?」と声を上げる。

「知らなかったんだ? リートね、恋してるんだよ」
「……恋?」

えっとね、この前の休みに街に行った人が、リートを見かけたんだって。 あの、何てお店だっけ、えーっとスープがすごく美味しい店! あの隣に花屋さんあるでしょ?
その花屋さんにリートがいたんだって。店の女の子と話してたらしいよ。
別の日に他の人も見たらしいし、どうも通ってるみたい。
でも花を買ってるって話は聞かないし、リートの部屋にも花とか別に飾ってないし、
多分目的はあの花屋の店員さんだろうって話。


「…なるほど」
「他にもね、花を買う用事はないかって聞きまわるリートを見たって人もいるし、間違いないよ!」

そういえば花の世話をしている女の子がいたなと、レスクは思い返す。
その店のことはレスクもよく知っていた。
部屋に飾る鉢を買いに何度か足を運んでいるし、店の主人とも話をしたことがある。
先日新しく種を買ったときに、それを包んでくれた子がリートの想い人なのだろう。
ニコニコ笑っておすすめの肥料について教えてくれた、可愛らしい子だったと思う。
少し前に一度リートにあの店にお使いを頼んだことがあったが、あれがキッカケだったのかもしれない。

「リート、ずっと彼女欲しいって言ってたもんねー。上手くいけば良いなぁ」
皆リートには無理だって言うんだけど、あれは絶対ひがんでるだけだよね。
自分には彼女いないから悔しがってさー。

パンをかじりつつも、隙を逃さず話を続けていく。
そんなフィルに軽く相槌を打ちながら、レスクも食事を続けた。
親友の恋愛事にひがみもせず、ただただ上手くいけば良いと応援する姿に、ほんのりとした温かさを感じる昼下がりだった。


数時間後、街から意気揚々と戻ってきたリートに砂糖にハチミツを絡めたかのようなノロケ話を聞かされ、首尾はどうだったと話を振ったことを後悔する二人がいたとか。




リートの恋バナ。しかし本人不在。
周りの視点で話が進むのも良いかなと思って。 他の人は笑ったり茶化したりしますが、この二人はちゃんと応援します。ただし応援するだけ。
結局どうなるかは本人次第なのです。 頑張れリート。

リートがお使いに行くに至る話もありますが、全然関係ない話なので、それはまた今度。
この後日の話は、気が向いたら書きます。