「あー…夏休暇が終わる…」

誰に言うでもなく呟いて、リートはテーブルにだらっと突っ伏した。
両腕を前に伸ばして、その間で顔を横に向けたり顎で支えたりと、もぞもぞしている。
レスクはそれを眺めつつ、適当な相槌を打った。

「分かってるんだ、失った時間は取り戻せないって。でもさあ、こう…なあ」
リートは、同意を求めるように、チラッとレスクへ目をやった。
結局顔は腕にもたれかけさせることで落ち着いたようだ。
レスクは頷いて、紅茶の入ったカップを手に取った。否定とも肯定ともとれる。

「休暇中にやることはやったはずなんだ。実家にも帰ったし、部屋の掃除もしたし、足りないもの買い足してー、休息取ってぇ…」
そう言いながら、リートは同じ体制のままで指を折って数え始めた。
ちなみに、掃除には他の同僚も手伝わされていた(代わりにリートもみんなの掃除を手伝った)。

「休暇の終わりには、ついやり残したことがないか振り返ってしまうものだね」
特に長期休暇のときは、と付け足して、レスクはカップを置いた。
実際には、振り返って無駄だった時間を後悔するのが普通である。
リートは、終わってしまう休暇を前に、なにか物足りない気持ちになっているのだろう。
やり残したこともないのに、無駄があったのではないかと振り返っているのだ。
あるいは、明日からまた訪れる軍事訓練という日常に、嫌気が差しているのかもしれない。おそらくそうだ。


折角の休暇の最終日に、こうしていつものように食堂に集まってだらだら喋っているこの時間こそ、無駄なのではないか。
フィルはそう思ったが、口には出さなかった。
太陽はもう西に沈み始めていた。




何これ。数十分で書いたらこれだよ。
実はフィル視点だったってのが最後に分かる、みたいなのがやりたくて。あと夏休み最終日なので。